蒲生の大クス


蒲生の大クス


日本でもっとも大きくなる樹木がクスノキである。そのクスの中でも最大に成長したものが、蒲生の大クスであるといわれている。
鹿児島からはバスで約1時間、蒲生町の中心部八幡神社に大クスは聳えている。
平成元年6月、緑の国勢調査と呼ばれた「全国巨樹巨木林調査」が環境庁によって発表された。その速報の中で、蒲生の大クスが全樹種を含めても日本一の巨樹であることが確認され、のどかな田園地帯にある蒲生町が沸きに沸いたという。
胸の高さでの幹回りがなんと24.2m、根回りにいたっては約40mもの大きさを誇る巨樹の中の巨樹であり、古くより日本一の巨樹ではないかとの声があったが、全国を網羅した調査がそれまで無かったため、正式な日本一の座はおあずけの状態であったのである。
しかし、この調査結果により、晴れて日本一を名乗れる事となったのである。

クスは樹齢の長さにおいてはスギやケヤキ等と並んで国産樹種の中でも長寿を誇る樹木であるが、樹高においてはスギに一歩及ばない。しかし、巨樹として最も重要視される幹の太さにおいては、他の樹種の追随を許さないほどの圧倒的な太さを誇っている。
今回の環境庁の調査においても上位10本中9本までがクスで占められ、日本において最も太くなる樹種がクスであることをあらためて裏付けられた。
楠の分布は木に南と書く文字通りに日本の南部に広く分布し、関東以西の温暖な地方に分布し、太平洋沿岸の静岡県、高知県、鹿児島などの北風の弱い地域にはとりわけ大きなクスがみられる。
また、クスノキは特殊な香気を持ち、樹木より樟脳が採取される。新しい防虫剤が盛んに作られている現代でも、樟脳はかなりに広範囲で使われている。
樹木全体が虫除けそのものであるから長寿を誇るのもうなずけようというものだ。

私が初めて蒲生の大クスを訪れたのは、日本一と認定されたその年であった。幹回りが24mにも及ぶ樹木とはいったいどんなものであるのか、どんな表情で迎えてくれるのか、あまりにもけた外れの数値であるため頭の中でも想像が出来ず、まだ見ぬ日本一の巨樹との対面に心躍らせながら訪問したのを今でも鮮明に思い出す。
当日は生憎にも雨模様の日ではあったが、その雨がかえって神聖なな雰囲気を醸し出してくれた。
社殿に向かって左側にその木はずっしりと根を下ろしており、にわかには近づきがたい雰囲気が木の周りには漂っている。
何よりもまず、その大きさよりも途方もない重量感に圧倒された。あまりにも巨大な体を支えるため四方へ張り出した根は、巨大な蛇のように盤踞し、いたる所に巨大なコブを作りだし、その巨体を支えるのに必死であるかのよう。
目が慣れて来るにつれ、その大きさの割には端正な樹姿であることに気がつく。さっそく撮影に取りかかるが、ファインダーを何度覗いても良いアングルが決まらない。あまりにも大きすぎるのである。

1.JPG (26775 バイト)

やはり2000年近くもの時を経ているわけであるから、その痛みも相当激しく、大きな枝の折れた痕跡や、枯れてしまった枝なども目つく。さらに幹の一部には大きく口を開き、中を覗くと10畳ほどもの大きな空間が目に飛び込んでくる。その見かけの圧倒的な重量感とは裏腹に、大きくなりすぎた体を維持していく木自身の必死の努力がこちらに伝わってくるようである。
こんな蒲生の大クスにも近年、樹木医の手が入り樹勢回復の手術が行われた。主なところでは、南側の石積を取り除き、土を入れ替え、ゆるいスロープに作り替えて水はけをよくすると共に、根が呼吸できるように改善された。
今年の早春に訪れたときには以前にも増して枝の葉の量も増え、樹勢回復手術の効果が目で確認できて、何とも嬉しい限りであった。燃え立つ炎のような樹形を眺め、これでさらに1000年は大丈夫と安堵するとともに、これからも日本一のクスとして、元気な姿を我々に誇示してほしいと願った。


  
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