シジミラーメンの悲劇

by ベベパパ


 それは、今を遡ること10年前、巨木を求めて下北半島から津軽半島を駆けめぐっていた一台の黒いBMW325iがありました。
5速ATミッション192馬力の直6エンジンはシルキーシックスと呼ばれ、高速道路では200キロを楽々巡行出来る性能を持っておりました。その高性能スポーツセダンを運転していた巨大幼児体型のオッサンが津軽半島をぐるりと回って十三湖に下りてきたと思いなせえ。湖岸に目敏く見つけた看板「名物シジミラーメン」に誘われるようにフラフラと店に入ったのであります。
「この名物のシジミラーメンをちょうだい!」
やがて運ばれてきた「名物シジミラーメン」は少し白濁したスープに細めの麺が沈み、ナルトが一枚とシジミの身が数個パラパラと乗っておりました。「・・・・・・・」
オッサンは無言でまずスープを口に運び、「(ぬ、ぬる〜い)」麺を啜り込んで、「(・・の、のびてるう・)」
何とか胃袋に収めて、これまた無言で店を出たのです。そして、黒いBMW325i
を十分ほど走らせた時、何やら下腹の方でぐるぐるぐるぎゅるるる?? ぎゅるる・・ぎゅる!?と饒舌に語りだしたのです。
「う、う、やべっ、で、出そう、も、漏れそう・・」
見回すとまさに青森名物リンゴ畑のど真ん中。トイレなんざござんせん。でも後部座席には緊急時のためにロールペーパーを積んであったので、急ブレーキをかけてポンとシフトレバーをたたき落とし、サイドブレーキをちょこっと引いてドアをバンと蹴り開け、ロールペーパーを一個ひっつかむやダダダッと飛び出し、ズボンのベルトを外しつつ数m先の地面の窪みに足場を見定めて、しゅたっと立つや一気にパンツも一緒に引き下げしゃがみ込む・・・間一髪!ぴっしゃ〜!!(どっかで聞いたセリフ?いや、擬音?)、ちょうどリンゴの木の下でふんにゃらにゃんにゃらやらかした訳で、見上げるとまだ熟していないリンゴの実が哀れみの眼差しで見下ろしておりました。

すると、視界の隅っこをなにやら黒い物体が動いている?? やべっ、誰かに見られてる??・・・と、視線を遣ると何と、無人のBMW325iがドアを開けたまま、ゆるゆるのろのろとリンゴ畑の中を散歩しているではないかいな!?
うぎゃ! と悲鳴を上げたオッサンは引き下ろしたズボンを膝上までたくし上げつつ、ロールペーパーを丸ごとお尻にあてがいつつ、裸のお尻をむき出しにしつつ、ぴょんぴょんと「ワオキツネザル(ルパーシファカ?)」のような格好で逃げるBMW325iに追いつき、開いたドアから頭から飛び込み、左手でブレーキペダルを押さえ、右手でサイドブレーキをぐいっと・・・シフトを「N」に入れたつもりが「D」になっていたのです。

 何だかスッキリしない気分で再び走り出したものの、ガソリンスタンドでトイレに飛び込み、十五分ほど走っては、公衆便所に飛び込みつつ、金木町の「喜良市の十二本ヤス」のところまでやってきたのです。
ずーっとお尻の筋肉が弛みがちなのでロールペーパーは忘れずに、そびえ立つサワラの巨木を見上げていると、またもやぎゅるるるぎゅるりい・・・今度はオッサン、ニヤリと笑って笹藪の中に入り込み、余裕のある態度でズボンを下げてしゃがみ込む・・・・イッターイ! ナンジャイ! と見ると笹の尖った枝の先っぽがお尻の穴の柔らかい肉にプツっと突き刺さったのですわい。
・・・今思えば切れ痔の痛みを知ったのがその時だったのかも???
もちろんロールペーパーを押し当てると紅の花びらが散っておりました。
以来、津軽リンゴとシジミを見るたびにイタイ想いが蘇るのです。

 このハナシはすべてノンフィクションです。誇張は無く、どちらかというともっとえげつない事実を抑えていると云っても過言ではないでしょう。


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