「あかべこねえさんの独り言」の巻
5.笹子峠にて
ねえ、このまま高速道路に入るのいやよ。
だって、上野原からだとトンネルばかりじゃん。排気ガスが溜まってるから煙くて咽せて苦しいから下の道で行こうよ。笹子トンネルなんて最悪なんだから。・・・なによ、おじさん、ラーメン屋の前に止めちゃって。
あら、昼食? ごゆっくりどうぞ。
・・・まずいラーメンだったようで、顔に書いてあるわよ。
じゃあ、行きますか、笹子峠越え。
「天城越え」なら歌にもなるけど、「笹子越え」って「ササゴゴエ」だから、発音が汚いし、言いにくいわね。「べべパパ」も書くのは良いけど、みんな呼び難そうよ。それに、能登の方言では「せっくすおじさん」って意味だそうじゃない。やだぁー、きゃはははは・・・!!
笹子峠の道って誰も通らないから気持ちいい。トンネルは排ガスが充満してるからとても入る気にならないけれど、みんな我慢強いのか、この道を知らないのか、よくまあ中で繋がっていられるものね。あら、おじさんこんな峠の上まで来て止めるの?
・・・うーん、なになに、「矢立の杉」ですって? また、大きな木に会いに行くのね。
そんな細い山道を? どれくらいの距離があるの? すぐそこ? ホント、すぐそこにあった。でも、巨大ってほどじゃない。いわれは昔の武者が出陣にあたってこの杉に矢をう
ち立てたことから「矢立の杉」と呼ばれてきたんですって。高さは20mちょっとだけど、中が空洞になっていて、潜って見上げると空が見えちゃうんですってよ。でも、この杉の根元がスカスカでよく立ってられるものね。そのうち倒れるんじゃないかしらね。それでも、しっかり葉を繁らせているから、まだまだ元気なんだ。
じゃあ、頑張ってね、おスギさん。また、来るから・・。
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で、おじさん、そろそろ先を急がないと、
昼過ぎでも陽の傾くのは早いんじゃないの?
おや、勝沼から高速に乗っちゃいますか?
よっしゃあ、じゃあカッ飛ぶわよぉ!
6.須玉の山奥にて
高速道路でも山道でもワタシはスイスイ走れるのよ。それだけの力と性能を持ち合わせてるってわけ。でも、30・タンクバッグに、50・トップケース、それに40・パニアケースを両サイドにつけて全部で160・じゃない。一体何を入れてるのさ! 邪魔になって思い切り飛ばせないじゃない。思い切って倒し込めないじゃない。おまけに95キロのオジサン! バイクの身にもなってよね。 双葉でまた休憩? トイレ? おっきい方? さっき行ったばかりじゃなかった?
頻尿症ってのはあるけど、頻糞症ってのはあるのかしらね?? どう? すっきりした? じゃあ、もう一息行きますか。
須玉で降りて、ほんの2,3キロで根古屋神社ってところに着いちゃった。
ええーっ!これがケヤキなの??
なんだかほとんどブリキで覆われていて、さながらサイボーグツリーって感じ。ここまでして生かされる木も可哀相ね。延命装置つけられて辛うじて生きながらえてるような・・・。それに、木肌も苔がびっしりで岩肌とたいして変わらないみたいね。
あら、おじさん、私を入れ込んで写真撮ったの? ここに来た証拠として?一体どっちが好きなの、私と木と。どっちが大事なの私と木と? この質問女に言われると厭でしょ?よく言うのよね人間の女って、「私と仕事とどっちが大事なの?」「ね、ホントに愛してる?」「どれくらい愛してるの?」「証拠見せて!」 実証主義者なんだ。現実主義者なんだ。常に確認したいんだ、今の自分の立場を、自分の存在を。でも、おじさん、私は何も言いません。何も求めません。貴方の思うまま好きなように動きます。走ります。曲がります。止まります。
でも、お願いだからオイルチェックだけはいつも忘れないでね。私なぜかオイルを良く食うのよね。この前だって久しぶりにオイル窓見たら全然なかったから泡食って500mlも足したでしょ? ガソリンだけじゃ走らないのよワタシ。オイルという潤滑剤が無ければ、人間関係もギクシャクしちゃうでしょ?
バイクも自然も人間の心のオイルなのよね。なんて、ブツブツ言ってたらまた、山奥まで来たわねぇ。
「日景のトチノキ」っていうのあの大きな木? あらまあご立派。周りの木がみんな小さく見えちゃう。ねえねえ、そばまで行って見ましょうよ。こりゃまた田圃の畦道じゃない。道なんか無いじゃない。・・・近くで見るとまあおっきぃこと。枝振りもなかなか姿良くまとまっているわね。
葉っぱの無い大木って飾りの無い肉体って感じ。そのものの本質が見えてすごく感銘を受けるわ。時々グロテスクなのもあるけど・・・。
あら、ワンちゃん、どこから来たの? 野良犬なの? おっきな首輪してるわね。なあに、このおじさんの臭いかいで、見た目はごっついけど優しいおじさんよ。大のネコ好き、イヌ好き、動物好きの変なおじさんなのよ ・・・ありゃ! 鉄砲持ったおじさんがこっち見てる。あんた猟犬なの? 猟師のおじさん!このおじさん人間よ!撃っちゃだめよ!ほら、ちゃんと二本足で立って眼鏡かけてるでしょ! こんな熊いないでしょ!
おじさんも危なかったわねぇ、これが草むらの中でモゾモゾしてたら、熊かイノシシに間違えられて鉄砲で撃たれてたわよ。遠目で見たら大して変わらないんだから・・・。
7.佐久の王城公園にて
なんだかひたすら走り続けて来たから疲れちゃった。でも、もう4時なんだからすぐに日が暮れちゃうわよ。でも行かねばならぬ王城へ? 何言ってんのよ。急いでいるくせになんで途中あんなにトイレばかり行くのよ!
しかも大きい方ばっかり。2時間おきに行ってるんじゃなくて? えっ、行きすぎてお尻から血が出てます? それは痔ってこと?
あの「ち」に点々の「ぢ」で、字からして痛そうなヤツ。しかも下痢で下してるんじゃなくて、毎回元気な正常なブツを出して血を出してるの? お気の毒様。要は食べ過ぎなのよ。だから出る量も多い。違う?
ほら、王城公園に着いたわよ。
・・わっ!!これまた立派な大木。
「王城のケヤキ」って、綺麗な姿してる。形がいい。高台にそびえ立っていて、すごくシンボリックな感じ。しかも背景に浅間山があって絵になる巨木ね。
裸でこれだけ姿が綺麗なのだから、春の新緑、秋の紅葉の衣装を纏った姿を見てみたいわよね。「王城の欅」というより「王様の欅」という風格を感じる。
また、会いに来なくっちゃ、じゃあ、またね王様!
8.帰路
まあ、しかし、よくもまあこれだけの木を一気に回ったものね。
「諏訪神社のスダジイ」「井戸のサイカチ」「軍刀利神社のカツラ」「上野原のケヤキ」「笹子矢立のスギ」「根古屋神社のケヤキ」「日影のトチノキ」「王城のケヤキ」それぞれ、巨木あり、古木あり、奇木ありで、なかなか味のある木ばかりだった。
国や市町村の天然記念物になっている木があれば、名もなく密かに佇んでいる木もある。 どっちにしても、千年近く生きてきた木ばかりなのだから、それなりの生き抜いてきた知恵を持っていたのね。なのに、人間が勝手に「保護」「保存」という名目でいろんな手を加えるものだから、本来自然の木が持っている生命力を損ねているみたい。神社や寺の神木とされている木は、あちこち弄られて辛うじて生きながらえているし、山の大木は周りの木達に守られて大きく生きている感じがする。森には森の自然の知恵を持って生きている。山には山の知恵がある。本来人間は一切立ち入らなかった筈なのに、人間が入り込んで人間のエゴを押し付けることで、自然を破壊してきている。 「保護」や「保存」とはあくまでも人間主体のエゴの押しつけであり、自然の木にとって決して有り難い物ではない。人間は自然界の頂点にいるのではない。進化の頂点にいると勘違いしている。 結局人間は自分たちのエゴに押しつぶされ、「滅び」に向かって進んでいるとしか思えない。
人間の文明は「進化」ではなく、「生命の退化」ではないか。
あら、ワタシ偉そうなこと言っちゃったかしら。ああ、それにしてもこの渋滞イヤねぇ。
「やいっ! てめえら、いい加減にしやがれってんだ!」
やだぁ、ワタシ男みたいな口きいちゃった。・・えっ? ワタシって、オトコだったの?あんらぁ、ごめんあそばせ・・・。・
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