紅手鞠

ユカ


ソメイヨシノ、枝垂桜、八重桜。桜は好きな木のひとつです。小さな頃は、山斜面一杯の桜の下であそび、写生をしました。

生まれた地を離れ、東京に来ても桜はいたるところにあるもので、今、名所といわれる井の頭の近くに住み、豊かな花を堪能することができています。

でも私は、最も好きなただ1本の桜があります。紅手毬です。

それは近所の庭に生きています。低い生垣越しに、全貌を見ることができるのです。
梅も、桃も、枝垂桜もある庭で、一際大きく広がる、紅手毬の枝。ここに移り住むまで、その種類さえ知ることがなく、花が咲くまで、その芳醇さを想像もしなかった、私の桜です。

初めて、枝にたわわに実る手毬に対面したとき、見とれてただただ、立ち尽くしました。我に返り鞠を手の平にのせ、ふうっと持ち上げた時の幸福感を、色あせずにずっと私は覚えているのです。


寒い冬の道、毎日往復する道。茶色の枝肌をきゅっと締めた姿を見上げて、花咲く頃に思いを馳せます。この桜に出会ってから、何倍も春を待ち遠しく思い、何倍も春の喜びを感じ取るようになりました。

出会ってからは、2年余り。日常で、移ろう季節を見て、香り、吹かれ。日本の風土を、いとおしく思うこと。そのきっかけは、おそらくこの紅手毬でした。
いずれここから別の地へ移る日が来るでしょう。その時、一番名残惜しいのが、この桜との別れです。


<ユカさんの自己紹介>

つい最近巨樹に興味をもちはじめた新人です。


 




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