いっぽんのシンボルツリー


小梅


あたしの名前はウラン。ちょっとぶっそうな名前だけど、大きい姉ちゃんが子供の頃、アトムが大好きだったから、女の子のあたしはその妹の名前を、このうちにもらわれてきた時にもらったんだ。本当はダージリンとかいっそ、タマなんていうのもよかったかなと思ったけど、この名前、気に入るのは結構早かったよ。

うちの庭には植木がいっぱいあるんだ。梅や桃、びわの木もあってスーパーで売っているような甘いだけのものじゃなくって酸味もある、しっかりした実をつけて、季節を味覚から楽しめるみたい。もっとも、あたしは一度も味見をしたことがないからわからないけどね。
でも、あたしにでも季節を感じることができる1本の木がうちの庭にある。ドッグウッド…Dogwood…。
この木の皮を煎じたら犬の皮膚病に効くって由来だけれど、キャットウッドじゃないところをみると、あたしには効かないみたいだわ。アメリカハナミズキの名で親しまれて今では街路樹、並木としてもずいぶんポピュラーになってるけれど、うちにこの木が植えられた頃はまだ知ってる人も少なかったらしいよ。もう25年は昔になるらしいけれど、ここの小さい姉ちゃんと母さんが植木市でみつけてきて二人でかかえて帰ってきたんだって。だからせいぜい1m、幹はそりゃお菜ばし程度だったんだろうな。母さんはドッグウッドの野生の木をアメリカで見た時からずっと好きだったと聞いたことがある。きっと自分の庭に植えたいって、ずっと思っていたんだろうな。そういえば、日本がアメリカに桜を贈ったお返しにもらったのがドッグウッドだったらしいよ。ずーっと昔、日本とアメリカが戦争する前の話らしいけれどね。

今ではもう2階の屋根より高いこの木をあたしが知ったのは7年前。初めて庭に飛び出して視界に入ったこの木に駆け登ってみたくなった。ジャンプ!それっ!てわけでかっこよく決めたつもりだったけど、木登りも初めてだったものだから降りかたがわからなくなって立ち往生。母さんにも姉ちゃんにもえらく怒られた覚えがある。


4月の終わり頃になると白い花をいっぱいつけて、昼はまぶしいほど明るくなって窓から差し込む光が白く見えるほど。夜の闇には真っ黒なあたしは保護色でまぎれてしまうけれども、この木のあたりだけは浮き立つように白く見えるの。年季はいっているからひょろひょろの人工的な並木の花とはちょっとちがうと思うな。しかもピンク色の花もあるけど、やっぱり白じゃなきゃだめだよ。
花が散ると白いカーペット状態できれいだけど、母さんは掃除がたいへんとかなんとか言いながらその木を見上げながらせっせと掃いている。
新緑の葉は、光が透けて1枚1枚が自己主張しているし、真夏の暑い日差しには木陰をつくってくれる。面白い形の実もつけるよ。緑色から赤色にその実の色が変わる時、葉っぱの色も変わる。それはそれは複雑な色で一口に赤といってもちょっぴり黒や茶がかっていたり、大人っぽい色だと思う。気持ちもちょっぴり複雑、感傷的になってしまうのもこの頃だ。赤い絨毯を母さんがまたせっせと掃除したあとの木は寒そうだけれど一番格好がいい。いってみれば丸裸・骨格だけだからごまかせない。真の木の美しさを自慢できるのもこの時かもしれない。

季節の移り変わりをあたしよりずっと長くこのうちで見てきたのだろうな、この木は…。あたしが生まれるちょっと前、まだ寒い1月に大地が信じられないほど揺れて、築き上げてきたものが一瞬に、いとも簡単に無くなってしまうことを知った時、この木はどんな気持ちでそれを見ていたのだろう。その日の朝、家の中では危ないからって外に飛び出しじっと様子をうかがっていたのもこの木のあたりでだったらしい。ほんのちょっと亀裂が入って盛りあがっていた地面を見て震源地はここだ・・なんて言ったとか言わないとか、今では笑い話になってるみたいだよ。
きっとこの木はもっと前から地面の振動を、その根っこから感じとっていたにちがいないよね。きっと異変を声に出して知らせたかったにちがいないよね。
土の中は暗いけれど、あたしが今眠っているこの木の下はとても温かいよ。どんどん枝を伸ばしていくように、根っこもあたしを包み込んでいてくれるから…安心して眠れるよ。


<紹介>

小梅さんは、私の会社の同僚です。年齢を越えて妙にうまが合ういい友達です。
ユーモアのセンスは抜群でいて、ロマンティストでもあります。
彼女は小説や映画、音楽など話題が豊富で話ががつきません。
現在は兵庫県芦屋市にお住いです。

花子





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